由布院へ2

2019年7月3日 | izumi | イエローデータデザイン日記

◼︎歴史と文化がつくる宿

今回泊めていただいたのは、由布院の名旅館、玉の湯さんです。数年前に伺いましたが、その空気は、変わらずしっとりと静かに温かく包むようにお客様をお迎えしています。

新しい旅館が、どんないいデザインであってもこの空気感は出せるものではありません。それは有意義で文化的な時間の積み重ねがつくるものだからです。そして、変なことや変なものがひとつもないということがすごいのです。大体旅館とは、最初は良くても変なものが出てくるのです。代々、繋がらないのです。思いが。センスが。時間が積み重ねるのではなく壊してしまうことよくあります。

職業柄、変なもの探しをすぐしてしまう癖があるのですが、ここには変なものがないのです。きちんと選ばれしセンスが続いているのです。それが文化というものです。本箱の本1冊、なるほど、その収集の根拠が見えてきます。本の背表紙はコンセプトの羅列だと良く思うのです。だいたいそれも適当になっていくものの一つです。コンセプトをつなげられる本箱は文化を知る人でなければできないことです。本箱には小林秀雄全集がずらりと並んでいます。私の本箱にも静かに眠っています。
そうだ、またここに戻らなくてはと思いました。そんなことを気づかせてくれる本箱でした。

そんな私にご主人が、ここは1日じゃたりないでしょとおっしゃる。その通りです。この宿は食べて温泉に入って泊まりにくるだけの宿ではなく、自分の中の何かをとり戻すための宿なんです。そしてご主人は、小林秀雄がこの音を聞いたのではないかと言われる蓄音機を回してくれました。どうぞここに座ってと椅子をひっくり返して蓄音機に向けてくれます。蓄音機の針を落としたレコード盤がジリジリと音を立てて回り始めます。モーツァルトのフィガロの結婚です。バイオリンとチェロが奏でる音楽が針が滑る音とともに時間を超えて、時代を連れて、急にやってきたように思いました。

こうした蓄音機で音楽を聴く会を都度、開催されているとのことでした。もし私がこの近くに住んでいたらこのワープしたような時間を幾度となく過ごしたいなと思いました。

またふぅうとため息が。時間ってすごいなと。それもただ過ぎる時間ではなく有意義な時間がです。その時間が時代をつくっているのです。時間を無駄にできないです。あらためて思います。そんな思いでフロントに戻りながら、壁にかかる絵や書をみます。「時間」と書いてある書があります。そうだ、前来た時もこの「時間」と書かれた書にハッとして印象に残っていたのでした。「時間」まさに今回のキーワードです。

マッチ函の図案も素敵です。紙袋にも使われているこの宿のアイコンのような図案です。この民藝の意思が通った図案はとても懐かしく心を優しくします。パンフレットもモノクロの写真が見えているもの以上の物語を語っています。カワラマンの山田脩二さんの写真です。この方の瓦を好きな理由はその変わった経歴と志にあります。この間の日田の旅館でも別府の旅館でも使わせてもらいました。時が経つにつれいい味を出してくれる瓦が好きです。
たくさんの写真を並べるのではなく意思がとおった一枚の写真がなんと力強いことかと思うのです。饒舌に語り尽くしたものには、その後がないようにも思ったりするのです。
私の大好きなものばかりがある旅館でした。

また、ふぅうと、ため息に似た思い(不安か?)がこみ上げてきます。自分のつくったところどうだろうか、そんなことが心配になってきます。

ご主人から、玉の湯の物語を綴った本をいただきました。ここに有意義な時間を重ねた物語があるのです。ありがとうございました。私も「時間」を大切に積み重ねられるようにしていきます。まず余裕を持たなくては。馬車馬のように働いているだけではいつか「時間」を忘れてしまうのだろうと思うのでした。

岡部泉